実在する世の中

世の中の歌を唄う


湖ほどの酒の上の
点のような一隻の船が
まっすぐにやってくる


ずぶ濡れのわたしは甲板によじ上り
魚のように静かになった


冒険の始まりに
煙草を一本ください
喫煙所の優しさが
他人の家から
わたしを救い出す


動き出した心の絵は
軌道に乗った衛星のように
世の中の歌を唄う


精が尽きた岩
撃ち落とされた星座や
虫の抜けがらさえも
大らかに唄っている


微動だにしない蜘蛛
谷底を流れる河
忘れられた姓にも
真っ白な頭蓋骨ほどの
光り輝く権威がある


ああ それは在る


死ぬための場所があるなんて、誰も教えてくれなかった!