ある映画監督の一生

作詞:澁谷浩次
作曲:細馬宏通


19世紀のおしまいに
農民の子に生まれたよ
新聞売ったりバンジョー弾いて
家計を支えた苦学生


兵隊さんは務まらず
除隊の理由は風邪っぴき
それからしばらくゆきゆきて
ペテン師なんかもやりました


どうしたわけかその僕の
頭の中に物語
いくつもいくつも現れた
映画にしない手はないね


喜劇役者のギャグを書き
生計立てていたけれど
流れ流れてコロムビア
監督修行の始まりだ


哀れな乞食の婆さんを
ギャングが助ける人情喜劇
これがびっくりアカデミー
監督賞にノミネート


名前を呼ばれて飛び上がる
ところが照明当たらない
フランク違いのロイドだよ
確かに僕はキャプラだね


それでもめげずに一年後
旅するおかしなカップルの
或る夜の出来事撮りました
今度はほんとにアカデミー


スタジオシステムなんのその
スターのワガママなんとする
ステレオタイプと呼ばれても
監督稼業はやめられぬ


大金投じた大作は
無惨に編集されました
失はれたのは地平線
だけではないよ、お客さん


どうしたわけかこの僕が
戦意高揚お国のために
嫌になるほど撮らされた
戦争映画はうんざりだ


戦争終わって日が暮れて
映画の会社を作ったよ
今度は僕の自信作
監督稼業はやめられぬ


天使が見せる人情喜劇
この世はこんなに素晴らしい
主役が居なけりゃ意味ないね
主役はジェームズ・スチュワート


ところが僕の自信作
お客が不入りで大失敗
最後は宇宙でランデブー
自伝を書いておさらばだ


撮った映画は40本
決して多くはないけれど
今ではどれもクラシック
みんなが泣いたり笑ったり


どうやら僕の人生も
ここらでそろそろ潮時だ
だって94才だし
この世に未練はありません


みなさんどうもありがとう
名前を呼ばれて飛び上がる
照明消えて さようなら
エンドマークだ さようなら