”Losing me softly” 澁谷浩次

shibuya_igloo2014-05-29

仙台に20年前に移り住んだ時は、お金が無いので一番町のYAMAHAでピアニカを買って、即興演奏のカセットを自主制作しました。知人の計らいで松本に行くことができましたが、楽屋で緊張して出番を待っていると、これから殺されるボクサーになった気分でした。真夜中のパーティーを気取って榴岡公園などで何度も集団即興をしましたが、最も楽器らしい楽器を手に現れた大月俊二さんだけがジャズの素養があったので、人前で胸を張って演奏するためにyumboを結成する時に誘いました(15年後に子育てが忙しくなり脱退)。バンドでは頼み込んでも歌ってくれなかった大月さんですが、何の前触れもなくギター弾き語りで歌謡曲を歌ったMDをくれたことがあって、今でも大事に持っています。同じ頃、須貝吏さんも仙台の公園やギャラリーなどでアルトを吹いていましたが、気安くつるむことができない互いの性分のために、実際に逢って言葉を交わすには2012年まで待たねばなりませんでした。お気に入りのサックス奏者を訊くと、サックス奏者は嫌いだしジャズも聴かないと言うし、これからはもう即興はやめてメロディーを吹きたいと、信仰告白のように話しました。seventh continentというバンドで一緒に演奏する時に曲の提供を頼んだら不良っぽいR&Bを書いてきてくれて、その日のライヴでは一番受けました。高橋朝さんは17才の時に東京の文通友達に教えてもらったChé-SHIZUの「約束はできない」というLPで初めてドラミングを聴きました。当時北海道の田舎に住んでいて何の情報も無かった僕は、あんな凄い演奏をするような人は、LPを出した後に蒸発するか、壮絶な死を遂げているに違いないと思い込んでいましたが、2003年頃にMaher Shalal Hash Bazの大掛かりなライヴが法政の学館であり、妻が作ったカモメを頭に被ってギターを弾くために参加したところ、矢野君という今治のタオル工場の息子が「澁谷さん、凄い人が居ますよ!」とリハーサル前に連れてきたのが他ならぬ朝さんでした。本番で、朝さんが盥に入れた氷をゆっくりと溶かしている真剣な面差しを盗み見ていると、魂をゆっくりと溶かしているようで気が気ではありませんでした。現在umiumaというバンドをやっている堀谷ますみさんとは、仙台の大学の軽音部の子たちが呼んでくれたイベントにyumboで出演した時に初めて逢いました。当時堀谷さんは金色というバンドをやっていて、ライヴの終盤でイントロを聴いただけで、すぐ近くで観ていた女の子が「ああ!この曲大好き」とため息をついていました。ソロ演奏も頻繁に行っていて、初めて観た時に太鼓を叩きながら古い賛美歌を原語で歌っていたのは、たいへん率直で美しい演奏でした。3c123さんは別名ヤタスミといって、「愛欲人民十時劇場」「なまこじょしこおせえ」などのLPで親しんでおり、高橋朝さん同様、僕のロック紳士録の一頁を飾っていた人物でしたが、震災後にお会いする機会があり、とつぜん電話で演奏に誘ってもらったり、僕がやっている밀양(ミリャン)というグループにサングラスをして参加してくれたりしました。「アラスカ」という写真集を出した木股忠明さんの写真展をホルンという僕の店でやりたいと言ってくれて、写真を水平に展示するために忍者のように働いたり、その写真展に関連して故・金子寿徳さんの貴重なフィルムやベリーダンスの映像を見せてくれたりしました。なお、3cさんは今回の出演者の中で唯一、80年代に何度か開催されたオリジナル版「テン・ミニッツ・ソロ・インプロヴィゼイション・フェスティヴァル」に関わっていた人物で、今回の仙台篇の実現にも、強い後押しをして下さいました。鈴木美紀子さんはソロ活動を中心に、Maher Shalal Hash Bazでもギターを弾いており、僕が自営業で忙しくなって以前ほどMaherを手伝えなくなった時期にYouTubeで初めて、鈴木さんの切れ味鋭く豊かな演奏を聴きました。リーダーの工藤冬里さんに名前を教えてもらったので、他の鈴木さんの動画も観たりして、実際にMaherの現場でお会いするまでは一方的にファンでした(今でもファンですが)。とりわけ、工藤さんの詩の朗読に即興で伴奏をつけた「遠い夜」というCD-Rで聴くことのできる宝石のような煌めきにも似たアイディアの数々には魅了されました。今回の出演者のなかで一番最近に知り合ったのが瀬川雄太さんです。ずいぶん前ですが、友人とロック喫茶ピーターパンに行った時に、友人がバイトの美青年を指して「ほら、あの人がsubtleの人ですよ」と教えてくれたので、瀬川さんがsubtleというバンドで活動しているのは知っていましたが、それから10年以上はお逢いする機会がありませんでした。それが昨年になって、ある友人の紹介で妻と一緒に瀬川さんのご自宅にうかがう機会があり、旧知の友人のような親しみを勝手に感じて深夜までコーヒーを頂きながら話し込みました。その後は須貝吏さんも参加しているseventh continentでドラムを叩いてもらったり、ご自宅のスタジオでレコーディングをさせてもらったりしています。というわけで、以上の錚々たる方々の実演をご覧になりたい方は、6月15日の19時に仙台市民会館の地下一階・第一教養室にお越し下さい。


2014年 米ヶ袋にて