悲しきマグロ(イントロ) Sad Tuna (intro)

形を守ることをあきらめて
耳を澄ませば
世界の終りも
忘れてしまいそうです
細胞のひとつひとつが
わたしを呼び戻す
金色の船着き場へ
黒いカラス貝の散らばる
ドクターペッパーの池の底へ
その頃のわたしは
本物の山猿だった
みんなわたしを放っておいてくれた
全身毛に覆われて眼光鋭く
どこまでも回遊できると考えていたのだ
よく晴れた朝
第二世代のトランザムのパワーウインドウに
身長15cmのわたしは息をのんだ
泣きたくなるほどに空疎な
100万円はするであろうそのカラクリに
わたしは自分の全神経を集中させた
なんてかわいそうなんだ と
ハイジ牧場へと続く 田舎の国道で
わたしの動体視力は更新されて
後日 愛も閉じたり開いたりするものだということさえ
この目で見たのだ
体重5グラムのわたしは
話し言葉の枠組みを失って
冷たい豚に囲まれた山猿になった
飲むものがすべて深煎りの悲しみとなり
吐き出すものがすべて
裸のアマルガムだったとしても
驚くには値しない
曇った空から投げ棄てられた
宇宙のなかへ
何度でも飛び込んでいく
星のように酩酊したあなたの時間が
今は鋏で切り裂かれた裏日本に居て
言葉のような布団の上で
ひとりぶんの悲しみを海水で割っている
わたしもまた
回り続ける車輪となって
あなたの轍で血を流し尽くしたマグロだ
今やひとつひとつの街から静かに火が消えて
何も残らなくなったとしても
ある過酷な刹那だけは居残り続ける
いくら回遊しても割りきれない
分解されることのない痛みというものが
取り返しのつかない苦味がある
床を無くしたダンサーのように
身をくねらせて
今度はわたしがあなたを放る番だ
あなたはわたしの 忘れ難く寒々しい末尾だから
ザクロのように 赤く裂けた夜明けが来る
サーフィンはもう終わりだ
マグロをお食べよ