シブヤくん Shibuyakun
水の涸れたプールをよじのぼって
鼠のように他人の家に忍び込んだが
家の中なのにゴーゴーと風が吹いている
自分だけの詩を書いたあとで
昨日の線に腰掛けるのは
逮捕されるよりも辛い
余白に鉛筆で走り書きされた
無意識の注釈
足の裏に静かに触れた白い枠
そういうものを懐に入れて
身体が消えてしまう前に
道の対岸まで歩き切らなければならない
お願いだ 僕の身体を消さないでくれ
僕を消してしまわないでくれ どうか
僕の居場所を残しておいてください
お願いだ 僕を消してしまわないでくれ
冷えきった国道沿いのベンチで
僕のためらいを鎮圧しようとする
騒音のかたまりがやって来るのを待っていた
倍近く年を取ったあなたは
水に濡れた携帯電話を握りしめて
世界の結び目まで僕を連れて行かねばならない
鏡の向こうで踊るあなたの欲望を
僕は生きることにした そのためには
凍った土を一晩かけて掘ってでも
僕たちの家を作らねばならない
空に住む鳥からミミズを分けてもらってでも
このテーブルの左右にしがみついて生き抜かねばならない
シブヤくん 罪は重いよ
それは見逃せないよ シブヤくん
シブヤくん もう遅いよ
みんなとっくに行ってしまったよ シブヤくん
- demo録音
- 12/1加筆