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片栗粉が指の間からこぼれる 真夏の甘い蜜に
羽を浸して沈んでしまったスズメバチ
美しい艶のある胴体の 反射する光を待っている
世界の素朴なスープの水面を流された家が
暮らしの外へと押しながされていく先に
悲しい豚小屋があり
浜辺ではKANIの嘆きが 期せずしてあぶり出される
現実に赤々と燃える動機と
民衆への曖昧な慰めの間に横たわる
深い溝を埋める ダグ・ユールの笑顔
底の抜けた箱のような ゼロ人のコミュニティで
実の生らない木を切り倒し 酒の味と歌の速度を間違った旅で
A♭のルートをB♭に置き換え 安堵して座る椅子の上で
孤独な虫けらの塒で 嘘のDNAが
まことしやかにささやかれている
もはやわたしの 不毛な理論をお話する余地は無く
ただ黙々と シャケの腹を裂きながら 猫の罵声を浴びているに過ぎない
度し難く屈折した子ども部屋の 蛍光灯の明滅が
お母さんに謝り倒しているが
与えられるおやつはすべて ヘビイチゴのムカデソース添え
あるいは 崩れて跡形もない ネオンサインのケーキである
空色の女工服を着た必敗者の 敗北の昼の疲れを癒すため
歌の快活さと 深刻な霊感の領土が テッテ的止揚される
宿泊先のネットカフェに反響する からっぽのわたしの声が
刹那的という言葉を絵にかいたような コーヒードリッパーの底で
いつまでも漉されずに 焦茶色の渦をネバネバと巻いている